あ、午前の紅茶新作が出たんだ。
きっかけは、偶然目に付いた自販機にそう思った事。
そして近付いて、フレーバーの確認をしようとする。
「「午前の紅茶、香るなまこフレーバー。」」
声が二重になって、え、と声を零す。その声までも二重だった。
ふ、と横を見る。
そこにいたのは、ついこの間別れたばかりの彼女の姿だった。
同 じ だ か ら
なんで?あんなに仲良かったじゃない。
周りからはそう言われた。でもそれにしっかりとした言葉で返す事は出来なかった。
そんなもの、自分たちでさえ分からなかったというのに。
つきあい始めたのは高2の冬。きっかけは、バレンタイン。
前から趣味やら性格やら、似てるなぁ、と思っていたから
お互いがお互いの事を好きだったかどうかはまだ今もよく分からない。
だけれど一緒にいて楽しいから、だったらそれでもいいかな。そんな思考まで一緒だったようだ。
そして大学生になってとある日どちらともなく、何か違う気がするよね、と言い出し
またどちらともなく別れを切り出した。
それがつい先月の話。
自販機の前で立ち尽くす二人。でも別に嫌な気はしない。
お互いに、あ、という顔をしてすぐに苦笑を零す。
つい先月までは恋人同士だった相手の髪は、短くなっていた。
それは自分も同じだ。そういう考えも同じのようだった。
「お久しぶり・・でもないか」
またどちらともなく言葉を繋ぎ始める。
苦笑というか、恥ずかしがって笑うような笑みを浮かべる。
「飲んでみる?なまこ味」
付き合って、ドラマとか漫画でしか見たことの無いような世界に入ってみて
そんな事をしてみたくて、どちらともなくし始めてみて。
ある日ふ、と疑問に思う。
『ねえこれって大人の真似事みたいじゃない?』
こんな虚しい気分になるから。
同じだから、そうかな、とどちらも言わない。
同じだから、楽しさも悲しさも、倍になってしまう。
それをどちらともなく、感じ取ってしまったのかもしれない。
「なまこってこんな味すんの?」
「いやー食べたこと無いからわかんない」
「なんかでもこの味ってさぁ」
「「微妙?」」
「あはははっだよねえ」
そんな感じでいつも笑い合って。
似てるから、ねえ好き?、なんて甘い事は言わない。
笑っていればいい 笑っていられればいい。
まだ子供の気がする。 でもそうでもないんだ。
度々新商品が追加される自販機みたいに
いつも同じじゃつまらない、と
同じだから 嘆いていたんだろう。
「またね?」
「うん・・てかさぁ」
「「さよなら?」」
願わくば君に・・
end